杉真理の飛躍・『Niagara Triangle Vol.2』を成立させた確信 1と2

杉真理の飛躍・『Niagara Triangle Vol.2』を成立させた確信  
 
  1
 
 杉真理を、人はもっと聴くべきではないか。
 かつて「ベビー・トーク」と呼ばれた柔らかい声質や、「ポップ・マエストロ」と呼ばれた信頼感、そしてまた、いまだにビートルズ嬉嬉として語るその明朗さ。穏やかで優しく、純粋な男性ミュージシャン。――そんなイメージが結ばれるだろう。だが、それだけではない。
 彼は実にしたたかで、骨太のミュージシャンなのだ。純粋で、多くの人と関われる優しさと穏やかさを持っているのと同じほど、剛直でこだわりが強く、誰に対しても譲らない主張を以て楽曲制作に当たるタイプのミュージシャンである。
 この二面性をリスナーとして自らの感性に息づかせた時、我々の音楽ファンとしての耳はさらに大きく豊かな音の世界に遊べる。――私はそう考える。
 彼についてはいずれは大きな論考を用意したいのだが、ここではまず、彼の音楽に「深化」と自律の力を加えた重要な分岐点を扱う。
ナイアガラ・トライアングル VOL2』(1981年)。大瀧詠一との関わりであり、大瀧、佐野元春という強靭な存在との共存を通して得た飛躍だ。

 アルバム『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』。ユニット曲「A面で恋をして」への参加以外、杉が収めた曲は4曲。
 ジョン・レノンの死を悼んで作った「Nobody」。マイナーなギターが際立つ「ガールフレンド」。後年セルフ・カバーされた代表曲の一つ「夢みる渚」。そして、歌い出しからビートルズの「ミッシェル」を連想させる美しいメロディーに引き込まれる「Love Her」。この四曲によって杉真理は、大瀧詠一佐野元春という大きな才能を持つミュージシャン二人に囲まれて、彼自身もまた劣らない豊かな才能の持ち主であり、個性的なミュージシャンであることを証明している。
 否。むしろ、この三人が一枚のアルバムを作り、そしてそれが後年に至るまで聴き継がれる一つの世界観を成立させたのは、杉の存在があってこそだとまで私は考える。

                          (3に続く)