地震と母の嘘

20210320 夜

 

先ほど、一時間ほど前に、宮城県沖で大きな地震があったようですね。いま、ちょうど津波注意報が解除されたらしいですが、宮城県と東北、北関東の皆さん、どうぞお気をつけください。皆さんご無事でいらっしゃることを祈ってます。

 

今日、私はアメブロで、小説「やあ! ブルース・ボーイ!」の続きを公開しました。そこで、主人公が子どものころに母や兄が作ったカレーライスを回想しています。それについて、ちょっと補足。

 

彼の家は母と兄と三人ぐらしで、彼が生まれる直前に父を失くしていたので、母が田舎に戻って、朝と夜を両方働くようにして、彼らを育てました。彼らの母という人は大変に気が強く、自らの健康を過信していた部分もあって、時々寝込みながらも、コンビニだの弁当屋だのない昭和のころに、必死で働きながら母一人の子育てを続けていました。

 

やがて彼女は、8日に一度、宿直のある仕事を見つけ、家族三人の暮らしも、豊かではないながらも安定してきたのです。

 

そんなある日、彼女が宿直の日の夕方に、大きな地震が彼らの住む町を襲いました。多くのブロック塀が倒壊し、家屋にも被害が出ました。その地震は「宮城県沖地震」と名付けられたもの。しかしその時、彼女は施設の人々の世話をせねばならず、二人の小学生である息子たち、余震に怯えて震えて抱き合っている息子たちのもとへは帰れません。

そんな中、彼女は少しの時間を見つけ職場の公衆電話から、息子たちに電話をかけてこう言いました。

「大丈夫! 怖くないよ! お母さんは今まで生きてきて、このくらいの地震は何回も経験してるんだ。そのお母さんがピンピンしてるんだから、こんなの怖がることはないよ! 明日になったら、お母さんがいっぱい笑わせてあげるから」

幼い二人は母を信じ、家の中でも靴を履いて、野球のヘルメットと座布団と懐中電灯を近くにおいて、抱き合って寝ました。

 

さて、その後、弟の方は東京で大学生活を送る際に、近代日本文学・哲学に対する天変地異の影響を調べることがありました。そこで、彼は気付きました。彼の母は子どものころから、あんな大きな地震は経験していなかったことに!

 

彼は、自分の母が嘘つきだと知りました。

そして、あのとき、三十代末ごろの彼女の心を思ってしみじみ感じました。

 

「あの人の子どもでよかった」

 

 2021年3月20日

 藤谷蓮次郎